「新しい世界」から学ぶ賢者の視点

こんにちは、ストラボ代表の小木曽です。

少し前に読んだ本です。コロナの影響もあり、世の中が益々不確実になる中で世界の賢人16人が語る未来が書かれた「新しい世界」。サピエンス全史でその地位を確立したハラリや21世紀の資本を書いたトマ・ピケティはじめ知の巨人たちのインタビュー集です。以下個人的に興味深かった内容をシェアします。

生活拠点を変える人と変えない人による分断

これは、まさかのインタビュー受ける側ではなく、聞き手であるインタビューする人が言及した内容です。よく海外のインタビューでは、インタビューする側にその分野のリテラシーが高く、質問が的確で質が高いと言われていますが激しく同感です。

2016年のアメリカ大統領選を分析した研究内容では、アメリカの北中西部ではトランプのポピュリズムに共感し投票した人と、地元に留まった人の間に明確な相関があったとのこと。また類似例として、イギリスの EU 離脱の国民投票においても、英国のジャーナリストであるデイヴィッド・グッドハートの言うAnywhere族(移動するエリート達)と Somewhere族(地元に留まる人達)の対立構造があるとのこと。曰く、どこに移動しても生活可能な人達が EU 残留に票を投じ、地元にとどまった人達が EU 離脱に票を投じた構造があるようです。

個人的には、移動する人=エリートとは到底思いませんが、対立構造があるのはなんとなく理解できます。ましてや現地は日本と異なり貧富の差も激しいですし、治安にも表れています。地元を離れる人は、家も職場も新しい環境で一旦リセットされることになるので、新しきを良くも悪くも相対的に多く経験することになります。よく言えば、視野が広がり、環境変化に対しては相対的に免疫があると言えるかもしれません。正解はないと思いますが、それが政治かつ歴史的に大きな分岐点になる際の重要事項において、色濃く反映されている点が興味深いです。

ボーモルのコスト病

トマ・ピケティらを指導したことでも知られるパリ高等師範学校経済学部長のダニエル・コーエンのインタビューの内容です。内容と言うより、ただの用語なのですが、初めて知った内容なので、なるほどと思いました。

皆さんは「ボーモルのコスト病」という経済学用語をご存知でしょうか?サービス業には製造業のような生産性がないことを説明する概念です。例えば製造業は自動車を想像すれば分かり易いと思いますが、一度製造工程を作ってしまえば、あとは流すだけ(勿論品質・生産・工程管理は大変です)なので、量産できることから生産性が良いといえます。一方で、人が人を相手にするサービス業は、人を相手にする時間と手間からサービスコストが高く、生産性を大きく上げることが容易ではありません。

そこでコーエンは、良くも悪くも人間社会に甚大な影響を与えているデジタル化も、サービス業の生産性を上げるという点においては、きっかけとしてプラスに働くと言っています。一例として、今回のコロナを機に、人が移動しなくても、人が集まって話せるようなことを挙げています。確かに最近は、AIやロボットで代替する動きが加速化していますよね。仕事では出張する際に、確かコロナ前でしたが、成田空港のグランドホステスが忽然と消え、かなりの割合で機械に置き換わりました。その時はセンセーショナルでした。プライベートでは、子供たちが好きなバーミヤンに行くと猫のロボットが動き回ってますw個人的には製造業とサービス業の生産性の構造を説明するのに、ボーモルのコスト病という概念があるんだということを知り、説明し易いなと思い、なるほど~でした。

クリエイティブ・文化産業の格差

これはコーエンが言及したスティーヴン・D. レヴィット氏による「ヤバい経済学」にも書かれている麻薬の売人の話です。この内容とコーエンの指摘が深かったです。

どこの地域や国を前提としているのか分かりませんが、麻薬の密売人は母親と一緒に暮らすことが多いようです。麻薬の密売に関わる人は殆どが貧乏で、豪華な暮らしをしているのは一握りのギャングのボスだけとのこと。ではなぜ辞めないのかというと、いつの日か自分も、ボスになれるという夢を諦めきれないから。

転じて、コーエン曰く、これはクリエイティブ産業や文化産業にも似た構造があるとのこと。お金持ちのスターが僅かにいて、彼らのようになれることを夢見て頑張る貧しい人たちが多数いるという勝者総取りの世界。このような構造の世界で働く人には、殆どが尋常でない水準の幻滅と生きづらさが待ち構えていると指摘しています。

クリエイティブや文化産業は、基本的にはこだわりが強かったり、好きで創作活動する人が少なくない印象です。そのため、仕事にするか趣味にするか、仕事にするのであれば本業にするか、副業に位置付けるか、このあたりの選択が、幸・不幸の分岐点になるのかなと思います。